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福岡高等裁判所 昭和57年(ラ)89号 決定 1983年2月21日

抗告人 田村ヨシ子 外二名

相手方 田村裕人 外二名

主文

原審判を取り消す。

本件を福岡家庭裁判所飯塚支部へ差し戻す。

理由

一  本件抗告の趣旨は主文と同旨であり、その理由は別紙のとおりである。

二  抗告人らは、原審判が原審判別紙1遺産目録1記載の宅地(以下「本件宅地」という。)の現在価額を六五六万五〇〇〇円としたのは、右宅地付近の土地の売買取引事例が坪当り一〇万円を下らず、飯塚市内の市街地における地価が坪当り五万円以下の評価をされることはないことからして、過少評価である旨主張するので、この点について検討するに、原審判における本件宅地の現在価額の評価は、鑑定人○○○○の鑑定結果に基づいていることが明らかであるが、記録によると、本件宅地の状況は、本件相続開始時畑であつたが、そのうち原審判別紙図面抗告人日下良子所有建物敷地部分の土地(三〇三・六五平方メートル)(以下「良子敷地部分」という。)に抗告人日下良子が建物を建築所有し、それ以外の土地部分(約七九〇・五六平方メートル)(以下「残地部分」という。)は、昭和五五年三月抗告人田村ヨシ子が二三〇万円、同日下良子が一〇〇万円合計三三〇万円を投じて境界を明確にし、石垣を築いて宅地造成したが(なお、右造成費用についても本件遺産分割において考慮すべきであろう。)、依然空地のままであつて、良子敷地部分と残地部分とは画然と区分され、その現実の利用状況も異にしており(ただし、残地部分の一部は良子敷地部分のための通路として使用されている。)、原審判では、良子敷地部分は抗告人日下良子の取得、残地部分は相手方田村裕人の取得とする等の現物分割のほか、遺産の賃貸料収益の分割金及び現物分割に伴う代償的調整金等について金銭債務を負担させる方法を併用していることが認められる。

ところで、分割の具体的方法として不動産の現物分割のほかに金銭債務負担の方法が併用されるような場合には、右金銭負担額の確定との相関関係上、不動産の評価額についても相互間の均衡を損わない程度の正確な鑑定評価が要請されることはいうまでもなく、たとい一筆の宅地であつても、そのうちの一部分と他の部分とが画然と区分され、その利用状況も異なり、右各部分が遺産の具体的分割の結果に影響を与える可能性がある場合には、予め右各部分毎を評価対象として把握し、各々の評価額を出し、あるいは、遺産の具体的分割の結果、宅地をその地上家屋の所有者である相続人に取得させることが予測できるような場合には、右宅地については自己使用を前提とし、したがつて底地ではなしに更地による評価をするなど、遺産の具体的分割が適正かつ円滑になされ得るよう実状に即した合目的的な評価がなされるべきところ、前示鑑定評価書によると、「(本件宅地は)近隣地域の地価水準又は公示価格等と比準し、さらに本物件と取付道路との利用価値、又は、便利さ等を参酌して一平方メートル当り二万円と査定する。これに建物の有する法定地上権の制約を考慮して、底地割合三〇パーセントを乗じて表示のとおり評価した。20,000(土地価格)×30%(底地割合)×1094.21(地積)=6,565,260(評価額)」との記載が存し、本件宅地全体及びこれとは別筆の原審判別紙2遺産目録2記載の宅地の平方メートル当りの単価が同一の理由で同一という結論が示されているが、これらの土地の単価を具体的事由を示さずに同一とし、しかも底地として評価している点において首肯することができず、それにもかかわらず、原審判が右鑑定評価の結果をそのまま採用し、本件宅地の現在価額を六五六万五〇〇〇円と評価したことは、右評価に関する前記説示の趣旨に副わず、その評価を誤り過少評価した疑いが強く、本件宅地の本件遺産中に占める重要性に鑑みれば、本件遺産分割の公平、妥当を期するためには、右の点についてさらに審理を尽す必要があるものというべきである。

三  また、抗告人らは、本件宅地を相手方田村裕人と抗告人日下良子に分割取得させるについて、その全体を同一単価で評価し、そのまま分割したことが、その取付通路との関係で不公平、不当であると主張する。

およそ、遺産分割に当り、その対象である宅地を具体的に分割した結果としての各宅地部分に、その取付通路の接面形態、路面の状況、幅員、公路に至る系統等に差異が生ずる場合、他に考慮すべき格別の事情も存しないときには、その具体的状況・程度次第では、これらを同一単価による割合面積で分割取得させることは合理性を欠き、不公平、不当とされるような事態も存し得ることはいうまでもなく、右のような場合、価額による割合面積の広狭を加減することが考えられるほか、これを補うため取付通路関係で不便を被る宅地部分に公路に至る道路を確保する措置をとるなど、具体的分割結果の公平、妥当を期するための配慮が必要であることはいうまでもないところである。

そして、これを本件についてみるに、資料によれば、前示のとおり、本件宅地は、そのうち良子敷地部分は抗告人日下良子の取得、残地部分は相手方田村裕人の取得とされたが、右各部分の取付通路関係は、残地部分は、その南側一帯に沿つて幅員約一メートルの、その北側一帯に沿つて幅員約三メートルの、未舗装ながらかなり手入れの行き届いた各道路が取り付けられている一方で、良子敷地部分は、その南側隣接家屋敷地が造成されて以来、両地の間には幅員一メートルにも満たないような道路とは名ばかりの空地を残すのみとなり、良子敷地部分の地上建物正門付近からの出入りが困難となつたが、他に取付通路もないため、前示のとおり後で造成された残地部分の側に面している通用口から、残地部分の一部分を通路代りにしてこれを主として通行し、さらに残地部分の右取付道路から公路に至るといつた不便さを被つていることが認められ、良子敷地部分と残地部分とでは取付通路関係で看過し得ない程度の差異を生じているのではないかと思料される。

しかしながら、原審判は、前示のとおり、本件宅地を、ただ同一単価による割合面積で分割取得させたのみで、右の取付通路の点に関する配慮を欠いており、本件遺産分割の公平、妥当を期するためには、右の点についてもさらに審理を尽す必要がある。

四  よつて、その余の抗告理由について判断を加えるまでもなく、本件即時抗告は理由があるので、家審規則一九条一項により原審判を取り消して、事件を福岡家庭裁判所飯塚支部へ差し戻すべく、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 美山和義 裁判官 谷水央 江口寛志)

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